ここから新しい時代のフェスはじめよう。ハイライフ八ヶ岳2020、2日目を終えて

  • レポート

今、2日間の開催を終えた。

「ハイライフ八ヶ岳2020」は、今僕たちが示した「覚悟」だった。この状況でフェスをやる。やると決めたときは、今以上に先行きが見えず、本当に厳しいタイミングだった。

でも、やると決めて、やれる方法を探し続けた。その覚悟は、アーティストに伝わり、出店者に伝わり、地元の方に伝わり、やれる方法を徐々に見つけていくことで実現に近づいていった。開催を決めたあとも、状況は刻々と変わった。でも、とにかく愚直にやれる方法を探し続けた。

その覚悟と挑戦は、参加者の「安心」につながったのだと思う。

会場で数組の参加者に話を聞いたが「どうしてもフェスに行きたかった。ハイライフなら大丈夫だと思えたから即決でチケットを買いました」という声ばかりだった。

ありがたい。本当にありがたいな、と感じた。


すべてのアーティストの様子を伝えることはできないけど、少しだけ会場の雰囲気を伝えたいと思う。

おお雨(おおはた雄一+坂本美雨)

坂本美雨が「会えるのが、夢みたい。みんな、集まりたかったよね」と優しくフロアに問いかけると、自然と起きる拍手。本当にこの時間を待ちわびていたんだと心から湧き上がる気持ちが、拍手となったのだろう。

「ハレルヤ」を歌いだすと、風で霧が動くのが見える。賛美歌が山に響き、霧が降りていた。子どもたちの笑い声が聞こえる。

「シャンゼリゼ」がはじまると、クラップが始まる。みんなで歌う。

『いつも、なにか、ステキなことが、あなたを待つよ、ハイライフ』

優しい空気があたりをつつむ。

加藤登紀子

コロナ禍において、いち早くライブを再開した加藤登紀子は、この春の思い出を語りだす。ライブもできず気持ちが落ち込んでいるときに「ときこさん歌ってくださいよ」と言われてすぐに書き上げた曲『この手に抱きしめたい』を歌う。みんなが大好きなんだ、みんなが大好きでたまらないんだという思いに満ちていた。

歌い終わり「ありがとう。また会おうね」と、ライブが終えようとした瞬間「最後に1分残っていた!」と言って「エアハイタッチ」をみんなで。とってもチャーミングだ。

クラムボン

プロデューサー南兵衛が、ハイライフ八ヶ岳の構想段階から出演実現を願い続けた八ヶ岳に縁のあるクラムボン。

「クラムボンでーす!2020年1発目のライブよろしくー!」

クラムボンの登場とともに、朝からずっと空を覆っていた厚い雲が、切れ始めた。「波よせて」を歌い終わったあとは、完璧に青空が見えた。

「今日のMCは笑わせる気ないです。尊い。本当に尊い場です」

最後の曲を終え「愛してます」とmitoの強い思いのこもった声が響いた。

MONO NO AWARE

今日一番、軽やかな軽やかなサウンドがフロアに届くMONO NO AWAREのライブ。

リズムの速さに「これ、これ!!」と心が踊りだす。玉置周啓は、会場に来る途中の田んぼの稲刈りの風景に、コロナのような困難があっても、力強く実る稲に感動したという。

『道なき道さえないような
ところに君は立っていた
散歩しようよ 僕と』

何度も聞いた「東京」の歌詞に浮かぶイメージに、これまでと違ったモチーフを浮かべる。フェスの再開という道なき道に立ち、一緒に散歩してくれた。そんな気がした。

目の前にMONO NO AWAREがいること、楽しめること。その意味を誰もが噛み締めていた。

ROVO

いよいよ「ハイライフ八ヶ岳2020」のヘッドライナー、ROVOの時間がやってきた。

アンビエントのようなスタートから、ノイズのようなもりあがりへ。決して簡単に頂点に持っていくわけではなく、寄せては返して、膨れてはしぼみ、また膨らむ。参加者とのセッションのような、一緒に信頼をつくっていくような、まさに“新しい”ライブだった。

コロナ禍で変わらざるをえないダンスミュージックのライブの「新しいクオリティ」を観客も示していた。こんな時代でも、安心してダンスミュージックを楽しめる、踊れる。それを証明できたライブ。ROVOと観客とスタッフが作り出した歴史に残るライブだ。


無事、2日間終わった。撤収が進む会場の中でこのレポートを書いている。この1ヶ月ほど、ハイライフのことばかり考えていた。まだ終わった実感はない。というか終わりはない。ここからだ。

新しい時代のフェスは開催できた。今回はフェスに関わる事業者やローカルフェスの主催者、音楽ライターなど、さまざまな人も来場者として参加してくれていた。

これならやれる。ここはこうしたほうがいい。きっと、それぞれのアタマの中で、新しいフェスのかたちの構想が始まったはず。

まずは始めの一歩を踏み出した。背中を押した。もちろん完璧じゃない。改善ポイントはたくさんある。

でも、大丈夫、フェスは終わらない。フェスはできる。ハイライフ八ヶ岳2020を目撃した、みんなが証人です。ここから、新しい時代の新しいフェスをはじめよう。

文:葛原信太郎
写真:丹澤由棋、古厩志帆、平林岳志