ハイライフ八ヶ岳を主催する、アースガーデンが挑戦してきた「コロナ時代の野外フェス」のほとんどに参加いただいているROVOの勝井祐二さんにインタビューしました。
ハイライフ八ヶ岳の会場の様子から、音楽を聞いて「踊る」ことについて、コロナ時代の新しいダンスミュージックと観客の関係などについて語ってもらった肉厚なインタビューです。記事掲載は、フェスティバルライフです。
(文:葛原信太郎/TOP写真:高橋良平)
今年のあらゆる音楽活動がハイライフ八ヶ岳につながる
─勝井さんには、アースガーデンが始めた野外フェス「ハイライフ八ヶ岳」1回目から連続で3回出演していただています。さらに、アースガーデンがコロナ禍でも野外フェスを止めない決意を示した準常設の新しい野外ライブ会場「多摩あきがわ ライブフォレスト」でも、ほぼすべてのライブ・フェスに出演してもらいました。
そうですね。今年はあらゆるライブが中止に追い込まれ、ミュージシャンは演奏する場を失いました。しかし僕は、南兵衛さんが誘ってくれたことでライブの場を一緒につくりながら、演奏もできた。この一連のイベントは、今年のライブ活動の柱でした。
─思い返すと、たくさんのドラマがありましたよね。今年は、ROVOのニューアルバムリリースの年でもありました。バンドの名前をタイトルにした、最高傑作とも言えるアルバム「ROVO」が9月9日に発売されます。
今年はアルバムのレコーディングからスタートしました。しかし、その後のコロナ感染拡大を受けて、その後の作業を進めることができず、夏に発売予定でしたが、どんどんずれ9月になりました。ハイライフ八ヶ岳も7月開催が延期されて、9月開催。
今考えると、今年の僕のあらゆる音楽活動が、ハイライフ八ヶ岳につながっていくんです。開催できることが、奇跡のような今年のハイライフ八ヶ岳で、ヘッドライナー。本当にとても楽しみですよ。
八ヶ岳はウッドストックに似ている
─今日、1年ぶりに会場に来てみてどうですか?周りを見渡せば、すぐ近くを雲が流れていますね。
もうここは「空の上」ですよね。ROVOのライブでは間違いなく、もっとも標高が高いライブになります。この標高の高さは、人になにかしらの影響を与えると思うんです。音の響き方も違いますし。これまでも「ここでのライブはなにか違う。特別なものになる」と感じてきました。加えて今年はここの「開放感」が特別な意味を持ちます。首都圏で感じるような、圧迫感からの開放。すばらしい体験になるはずです。
─今日は八ヶ岳に開業して約50年のカレーとクラフトビールの名店「ROCK」や、DIYで醸造所を建てホップを自分たちで育てるクラフトビールブリュワー「UCHU BREWING(うちゅうブルーイング)」も見学させてもらいました。八ヶ岳の自然だけでなく、そこに根付く「人」の魅力も感じてもらえたと思います。
いやぁ、すばらしかったですね。とてもおいしいビールをいただきました。もともと素晴らしい場所に、機動力や実力の高い人や店が集まっていて、さらに魅力的なエリアになってますね。
─歴史と自然の蓄積に加えて、新しいものを拒まない風通しの良さ。この両方を持っているのが八ヶ岳なんです。ここでフェスを続けていければ、文化的にもっともっと濃いものをつくれると思っています。実は、八ヶ岳の土地を気に入り、別荘を持っているミュージシャンも多いそうですよ。
ここはまるで、ウッドストックのようですね。と言っても、ウッドストックフェスティバルをやった場所ではありません。もともとウッドストックでやろうとしていたけど、許可を得れず別の場所でやったんです。八ヶ岳に似ているのは、本来のウッドストック。標高が高くて、落ち着いた街で、いろんなミュージシャンが別荘を持っていました。それほど大きくない街の中心には、名店がいくつかあって。とてもいい場所でした。
ROVOは触媒。参加者は自分で自分を踊らせる
─僕は昔から、アメリカのカルチャーにずいぶんと影響されてきました。ウッドストックにも出たグレイトフルデッドとか。
僕もグレイトフルデッドは大好きで影響を受けました。彼らは、あらゆることをすべて自分たちの意思で好きにやる。観客もそうです。みんなが自由に音楽を楽しむ。自由に踊る。
でも、僕が若いころ、日本には音楽を聞いて踊る文化がまったくありませんでした。ライブは着席が当たり前で、立っていたら警備員に怒れられたほどです。そんな慣習を、20年かけて打ち破ってきたのが日本の野外フェスの歴史です。
─ここで言う「踊る」というのは、タオルを回すとか、フリや型がある踊りではなく、純粋に自由な踊りですよね。
そうです。観客を自由に踊らせるっていうのはとても難しいことなんですよ。ずっとやってきましたから、よく実感しています。
ROVOは「お祭りバンド」と呼ばれることもありますが、このときの「祭り」は盆踊りのようにみんなが同じ踊りを踊るって事じゃないんです。例えるなら、僕らは「なまはげ」のようなもの。得体の知れない音楽を爆音で聞いた人達が「なんだこれはー!」と興奮し、非日常で自分を解放する。ROVOは、お客さんが「踊る」という行為で能動的に参加できる祭りをやってきたということです。
─なるほど。 ROVOが「観客を踊らせる」というよりも、ROVOによって、一人ひとりが「自分を踊らせる」ということですね。
そう。僕らは触媒なんです。
─なぜ僕が昔からROVOに惹かれるのか、ひとつ明確になりました。観客はROVOの音楽を触媒にして、自分自身に化学反応の起こさせるということですね。ぼくも誰かが決めた型にはめていくことにまったく魅力を感じないんです。一人ひとりの内発的な何かが集まったときに生まれる可能性を信じているんです。このコロナ禍だから、なおさら。
ハイライフ八ヶ岳は思考停止とは一番遠い場所
今、ダンスミュージックをやっているミュージシャンはとても困っています。でも、僕は過去のようなライブの風景に戻ってきてほしいなんてまったく思っていないんです。今は、20年間かけてつくってきた「音楽と踊ること」の関係を新しく作り直すときです。新しいクオリティを作るんです。
─新しいクオリティには何が必要でしょうか。僕はお互いを思いやることではないかと思っているんです。例えば、一緒にいる人がどのくらいコロナを気にしているか。それは考え方や価値観、家族に高齢者がいる・いない、そういったことによって異なる。それぞれの事情が違うわけですから。
そうですね。想像力がとても大事だと思います。思考を停止しないということです。
─ダンスミュージックを聞いても、我を忘れてはいけない、と。
そもそも、踊ることと思考を停止しないことは相反しないはずです。なぜなら「踊る」とは、能動的な行動ですから。意思があって踊っているわけです。新しいクオリティのもとでの、新しい踊り・音楽の楽しみは、かならず成立するはずです。
─ ありがとうございます。勝井さんの力強い意思に背中を押してもらい、ハイライフ八ヶ岳を必ず成功させます。僕は、この時代の「希望」を見つけたいんです。これまでと同じように過ごせなくても、1000人がフェスに集まる。そこにいる一人ひとりが、何を感じるか。そこからなにが起きるか。その先にはきっと希望があるはずです。
そうですね。人に会わない、家から出ない。それが唯一の解決策ではないはずです。そこにとどまっているだけでは、思考停止です。人間は生きていかなければいけません。だから思考を停止しない。
今、フェスに来るという選択は、思考を停止させないという意思表示です。ハイライフ八ヶ岳は思考停止から一番遠い場所なんです。東日本大震災以降、思考を停止せず、イマジネーションをもって目の前のことを向き合うことが、ずっと大事だと思ってきました。今の時代を生き抜くためにも必ず必要なはずです。
※フェスティバルライフの許可を得て、転載しています。