「ハイライフ・エクスプレス」の開催がいよいよ今週末12月19日(日)に迫ってきました。そこで今回はハイライフスタッフでありながら、「ハイライフ・エクスプレス」にも出演予定のVJ mitchelに、ハイライフ八ヶ岳の醍醐味でもある「VJ(映像演出)」とは一体どんなものなのかインタビューしてきました。またVJとしてハイライフを演出するようになった経緯や、一アーティストでありながスタッフとしてもハイライフに関わる想いなども聞かせてもらいました。
■ハイライフを彩る「VJ」とは何か?
_VJのような演出は山梨ではあまり見かけなくて、主にクラブとかで活動しているんですか?
ミッチェ VJは山梨にあんまりいないと思うんですよね。もしかしたらクラブとかのシーンにいるかもしれないけど、俺はクラブでやらないからVJの友達が山梨にいないの(笑)
_一般的にVJっていうカテゴリがしっかりと定義付いたのはいつぐらいなんですか?
ミッチェ 1990年あたりに現『DOMMUNE』代表の宇川直宏(うかわ なおひろ)さんがVJという名称をつけたとは聞いてる。
所謂クラブとかでまだビデオデッキだった時代に、VHSとかを持ち込んでデッキを切り替えながらモニターに映像を流していて。VHSだからテープ引っ掻いてノイズを入れたりしながら映像を流していたって言うのを聞いたことがあるね。
(参照 宇川直宏 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』)
ビデオジョッキー 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
VJ(表現者、操演者)
DJが複数の楽曲を組み合わせて音楽を作るように、クラブ(ディスコ)、コンサート会場で音楽に合わせてビデオ映像等を流したり、ライブで映像を組み合わせたり、リアルタイムで製作したり、あらかじめ作っておいた映像を流したり、その手法は様々。
■VJとの出会い
_30年も前からVJというカテゴリはあったんですね。
ミッチェ そうだね。俺がVJを始めた頃は「Sigur Rós(シガー・ロス)」とかがライブに映像演出を取り入れたりしていて。そういう流れで駆け出しの頃は“シューゲイザー”だったり“ポストロック”系のバンドから「VJやってよ」みたいな依頼がちょこちょこあったね。
_“駆け出しの頃”ですね。VJと出会ったのはどんなきっかけだったんですか?
ミッチェ 今の『VEJ』という会社に大学を卒業してすぐ入社して、当時会社でWEB制作の仕事をしながら趣味で友達のバンドのPV制作とかを始めたんだよね。
映像制作の知識は殆ど無かったんだけど、興味があって独学で勉強しながら作ってた。
_始めはPV制作からだったんですね。
ミッチェ 映像といっても色々ジャンルがあるけれど、俺はCGとかグラフィック系のリアルでない映像に興味があって。俺は楽器ができないけど音楽が好きだったから仲良くなったバンドのPV制作から関わって、だんだん自分で作った映像を使わせてもらったりしはじめたんだよね。
_それがVJの始まりだったんですね。
ミッチェ 元々はVJって「クラブとかでガチャガチャビカビカ映像を切り替えたり」みたいなイメージで全然興味が無かったんだけど、「ROVO」のライブで、迫田悠(さこた はるか)さんのVJ演出を初めて観た時にそのイメージが覆ったんだよね。
_どんな演出だったんですか?
ミッチェ 映像作品をライブに合わせて流すような感じ。ロングトーンの映像でストーリーを展開させるような演出で「こんなのありなんだ…」って衝撃を受けた。今はもう迫田さんは「ROVO」での活動はしていないんだけど、当時は凄く憧れで。
そこから自分も作っていたPVをライブに合わせて流せたらいいな…みたいなところから俺のVJはスタートしたんだよね。
(参照 『Sakota Haruka:official website』)
■「VJ mitchel」としての活動
_当時、迫田悠さんのような演出のするVJはあまりいなかったんですか?
ミッチェ いなかったね。VJをバンドで起用するっていうこと自体珍しかったと思う。そもそもライブハウス側もプロジェクターもスクリーンもないからVJに対応できていなかったし。だから当時は機材を全部持ち込んでやるしかなかった。
_現在のように「VJ mitchel」として活動するようになったのはその頃から?
ミッチェ その頃からちょうど「nego」の活動も始めたり、迫田さんが抜けた後「ROVO」の勝井祐二さんから誘いがあったりといろんなライブの演出をし始めて。少しずつアーティストと一緒にツアーを回ったりフジロックに出たり、「VJ mitchel」としてバンドの専属VJとして活動できるようになってきたのがその頃。
_ちゃんと仕事として演出依頼を受けるようになったんですね。
ミッチェ そうだね。趣味で友達のライブを演出していたところからフェーズが変わってギャラがしっかり出るようになって。遊びでやっていたのに遊びじゃなくなって来ちゃったのがその辺…(笑)
_複雑ですよねそれ(笑)
ミッチェ でも今でも“好きにやらせてもらう”と言うか、ミュージシャンと一緒に相談しながらやると言うスタンスは変わらないかな。「こういう映像を出してよ」と言うだけのオファーもたまにあるけれど、それだとあまり面白くなくて…。VJに関しては仕事だけど仕事では無いというか。
■ハイライフとの出会い
_ハイライフでVJをするようになったのは?
ミッチェ 5年前に山梨に移住してきたのがきっかけだね。ハイライフには2年目の開催から参加し始めたんだけど、1年目は出演していた「ROVO」の勝井さんから「近所でフェスがあるから来てみなよ」と誘いがあってお客として観に行ったんだよね。
_勝井さんのお誘いがハイライフと出会うきっかけだったんですね。
ミッチェ そこで勝井さんといろいろ話して。今まではVJで出演する側だったんだけど、せっかくミュージシャンや音楽関係の繋がりもあるし「山梨で音楽イベントを企画してみたい」って。
_VJ演出ではなくイベント企画を?
ミッチェ そうしたら「南兵衛さんから勉強したらいいよ」って勝井さんが南兵衛さんを紹介してくれて。だからハイライフに参加したのはフェスやイベントを作るノウハウを学ぶためだったんだよね。今の会社でも韮崎市のアメリカ屋で小規模なイベントを企画したりしたけど、いつかフェスはやりたいと思っている。
_VJ以外にハイライフで多くの役割を担ってくれていますよね。
ミッチェ このWEBサイトの構築・運営、ヴィジュアルデザイン、ブッキングとか色々ね。本当にそういった経験を通してすごく勉強させてもらっていると思う。またそうしたイベント作りを学ぶためという気持ちがありつつ、VJとしては「空間を演出したい」「表現したい」というものに興味が湧いていて。
_「空間を演出」する?
ミッチェ 専属のVJをやっているとミュージシャン以外にも色々な人と繋がりができて。例えばライブを作るのには欠かせないのが照明さん。照明、VJ、音響、ミュージシャンが役割を担って空間作りをするんだけど、照明とVJはかなり領域が被る。その中で色や光の抜き差しとかを話し合って空間の熱量や音像みたいなものを演出、表現するのがすごく面白かった。会場の規模によっても全然手法が変わってきたりね。
_そういった「空間の演出」を一からプロデュースしたくなってきたんですね?
ミッチェ そうだね。それを山梨だったり野外でしかできないものをトータルプロデュースしたいという想いが強くなってきた。ライブハウスとか環境が整っているところは逆に決まってしまっていて空間を作るのには限界があって。比べて野外はまっさらな状態から創り上げていくぶん自由度が高い。そこで映像や音楽を出して空間を一から作りあげる面白みをハイライフを通して学んでいるかな。
■ハイライフでしかできない“フェス作り”
_ゼロから空間を作っていく面白さは、野外フェスならではの魅力ですよね。
ミッチェ 東京にいた時はイベントをやるとなると、どうしても「ハコで」と言う考えになるから想像できなかった。山梨に来てからそんな概念に囚われず「色々場所で空間が作れるんじゃないか」ってすごく可能性を感じるし、山梨だからできることだと思うんだよね。そんなスペース東京にはないし。
_VJだけでなく、いずれフェスのプロデュースもしたいと思っているんですね。
ミッチェ 今は「山梨に住んでいる人間」として、老若男女幅広く楽しめるようなフェスになってほしいと思いながらハイライフの手伝いをしている。どうしても住んでいる人じゃないと見つけられない視点もあるし。ハイライフは県外からくる人が多いからせっかく来るなら山梨を楽しんで帰ってもらいたいと思っているね。
_山梨に「移住した」ミッチェさんだからこそ見えるものがあるのかもしれませんね。
ミッチェ そうだね。そもそもこの山梨は俺のおばあさんが住んでいた場所で、その時に見ていた景色や環境がいいなと思ったから俺は移住してきた訳で。だから今後ハイライフでもその環境を活かしたり出店だとか会場の「空間づくり」で山梨らしさをたくさん伝えていきたいかな。
_では地元の人との主なコミュニケーションもミッチェさんが?
ミッチェ それは南兵衛さんが少し特殊で(笑)。南兵衛さんは地元の人との対話をすごく重んじるし、東京のイベント屋さんとかでもここまでコミニケーションを取ろうとする人もあまりいないんじゃないかな。大体は会場側との打ち合わせだけ。地元の人も巻き込んでチームを集結させてフェスを作っていくっていう空間をハイライフは提供してくれているのかもね。
_お客さんだけでなく、ミュージシャンを含め携わる人たちみんなが楽しんでいる印象があります。
ミッチェ 南兵衛さんの凄いなって思うところは、お客さんだけでなくミュージシャン側から見えるロケーションも意識してステージを作っているということ。やっぱりお客さんとあの自然環境の中で赤岳を見ながら演奏ができるのはミュージシャンもなかなか経験できないことだと思う。だから出演してくれるアーティストも毎回すごく楽しみにしてくれているよね。
■「空間を表現する」ということ
_「空間表現」で言えば音楽フェス以外のイベント企画などにも興味があるんですか?
ミッチェ 確かにアートとして作品を展示したり、映像作品を流したりっていう常設の演出も同じ空間表現なんだけど、やっぱり音楽ライブの熱量って特殊で。その時だけに起きる奇跡的な瞬間というか、確実に準備をしても生まれるかどうかわからないものがある。それはやっぱり音楽だったり所謂「ライブ」という現場でしか起こらない奇跡的な瞬間だと思うんだよね。そういう常設ではない刹那的な空気感で空間表現をすることに凄く興味がある。
_ではVJの演出も「その場の熱量」に合わせて?
ミッチェ 俺はBGMだけでVJするのが苦手で、例えばDJが流している音楽に合わせるっていうのもハードルが高いんだよね。やっぱり演者とお客さんの熱量がぶつかり合ってできる空気感の中で空間表現をすることにすごく興味があるし、イベントを企画したいというのはそういう部分に本質がある。だから基本的に映像も決めずにその場でセレクトすることが多いかな。
_映像素材は作っておくけれど演出の流れは決めていないんですね。
ミッチェ 最近「映像は正直何でもいいんじゃないか」って思うんだよね。PV制作とかは当然自分の映像作品を見てもらいたくて作っていたんだけど。空間表現をしたいとなったら逆にストーリー性も省いたシンプルなものでいいんじゃないかって。「映像が出ていない」のも映像演出の一つだとすら思うようになって、だから最近はどれだけ映像を出さずに演出をするかってことにこだわることもある。
_“引き算”の演出を考えるようになったんですね。
ミッチェ そうだね。ずっと出てる映像は邪魔になったり飽きちゃうこともあるから。VJを始めたころは「ROVO」での迫田さんのようにストーリーがある映像作品みたいなものに憧れがあったけれど、今は“円”だったり“四角”だったり映像というより「光」としての演出を考えている。色身も抑えてほぼ白黒みたいな。
_普通一アーティストとしては「作品」を表現したいと思うのでしょうけど、ミッチェさんはあくまで「空間演出」の一つとしてVJがあると考えているんですね。
ミッチェ そうかもね。そんなスタンスだから最近受けるVJの依頼の半分ぐらいは即興演奏とかが多くなってきて。イントロからアウトロまで綿密に“ショー”を作り上げていく面白さもあるんだけど、やっぱり何が起こるかわからない、短いスパンで奇跡的な瞬間が起こるような現場の方がやりやすいんだよね。だってボーカルが「海」って歌っているときに「海」以外の映像って…出せないじゃん?(笑)
_「ビデオ“ジョッキー”」って定義の本質は、そういった即興性にあるのかもしれないですよね。
ミッチェ 俺は「VJは映像作家じゃなくてVJ」だと考えているのはそういう部分かもしれないね。実際ほとんど練習もしないし(笑)
_練習しないんですか!?(笑)
ミッチェ 毎回新しい素材は直前までめちゃくちゃ作るんだけどね(笑)。こだわって作ったけどほとんど使わないってことも往々にしてあるし、会場の色味だったり雰囲気で出す映像を変えたりとか、搬入当日にその場で判断することが多いかな。ハイライフでも毎回ステージを組む場所から変えているし。だからアーティストは同じ曲を毎回やらなきゃならなくて大変だよね。俺にはできない(笑)
_VJ michelは“アーティスト”であって“アーティスト”でない?
ミッチェ 正直“アーティスト”と呼ばれるのには少し違和感があるかも。基本的には照明さんに近いポジションだとは思っているけど、クレジットにはVJとして表記されるから“アーティスト”ってことになっているんだよね(笑)。
でもやっぱりライブやイベントは1人で作るものでは無くて、VJ、照明、音響、演者、お客さん皆で作るものだと思っているし、今回の「ハイライフ・エクスプレス」でも皆の熱量が起こす奇跡的な瞬間の空間表現をしていきたいと思ってる。初めての会場というのもあってとても気合い入ってますよ!
_「ハイライフ・エクスプレス」でのVJも楽しみにしています。ありがとうございました!
■VJ mitchel
山梨県在住VJ/Web Producer。2000年よりVISUAL AND ECHO JAPANに所属し、年間数十件以上様々なジャンルのWEB制作に携わる。自身にてディレクションを始めマークアップからプログラム、デザインまでWEBに関わる様々な業務を一手にこなす。 また2006年、旅団「IyaoiRythum」の撮影およびPV制作を皮切りに、RUMI、環ROY×Fragment、sgt.、MAKKENZ、SKYFISH feat.鎮座DOPENESS、Clean Of Core、DJ BAKUなどのミュージックビデオを制作。 そして2008年頃からバンドライブステージでのVJとして活動を開始。自身がメンバーとして所属するnegoの他に、共演するアーティストとコラボレーションしながら素材を作り込みよりライブ感のあるVJを追究。 D.A.NのVJとしてFUJI ROCK FESTIVAL ’16、ROVO and System7のアジアツアーそしてFUJI ROCK FESTIVAL ’14、GOMA & The Jungle Rhythm Sectionにて台湾公演、FUJI ROCK FESTIVAL ’13、Crystal lake、YOLZ IN THE SKY、七尾旅人、U-zhaan、大宮エリー、L.E.D、あらかじめ決められた恋人たちへ、STUTS、旅団、うみのて、sgt.、ドラびでお等に客演。そしてWEBクリエイターとしては、七尾旅人氏と共同でダウンロードシステム「DIY STARS」の開発やKAIKOO POPWAVE FESTIVAL、U-zhaan.com、ROVO、レイハラカミ、プロジェクトFUKUSHIMA!など親交の深いアーティストのWEBサイトを制作運営行っている。”音楽”を中心にリアルとネットを行き来しながら、WEBと映像の表現を多岐に渡り追究している。
http://not—found.com