玉井夕海「渋さ知らズ」&「“こども”オーケストラ」インタビュー

2019.06.24

ハイライフ八ヶ岳では、子どもたちがあたふたしちゃうほど楽しい空間が広がってほしい

絶景音楽フェス「ハイライフ八ヶ岳」。2017年よりスタートし、今年で3回目を迎えます。その3回すべてに出演するのが、アーティストの玉井夕海さんです。自身の音楽活動はもちろん「渋さ知らずオーケストラ」のボーカル、女優や映画監督、声優としても活躍。2017年10月からは「渋さ知らズ」代表の不破大輔さんと共に、制作チーム「東京湾ホエールズ」を結成。イベントの企画運営をおこない、その経験から今年は<天幕渋さ>の共同制作も担っています。

そんな彼女は、八ヶ岳と浅からぬ縁があり、ハイライフ八ヶ岳を応援してくれています。

八ヶ岳で冬眠中の「ヤマネ」を発見したことが、人生の支えになった

ハイライフ八ヶ岳の会場となる山梨県北杜市周辺は、玉井さんにとって思い出深い土地。中学生だった玉井さんは、ハイライフ八ヶ岳の会場のすぐ近くにある宿泊研修施設「清泉寮」で、自然を保護・調査するレンジャーの仕事を体験する合宿に参加しました。自分で課題を設定するプログラムで、玉井さんは天然記念物で滅多に人前に現れないヤマネを見つけると宣言。ヤマネの生態を調べ、注意深く探し、ついにヤマネを見つけました。

「冬眠中のヤマネは体温が相当低く、手に載せても起きないんです。掌で、その小さな命をずっと見つめました。大人にとっては短い時間や些細なできごとであっても、子どもにとってはその後の人生を支えていく瞬間があります。清泉寮でのヤマネとの出会いは、私の価値観や社会の見方に大きな影響を与えました」

この合宿のキャンプ長だったレンジャーがハイライフ八ヶ岳の実行委員長を務める川島直さん。ハイライフ八ヶ岳の前に縁があり、東京で25年ぶりに出会った二人は、お互いに存在を覚えていました。

「八ヶ岳の自然が子どもたちに与える影響の大きさを身をもって体感していたので、野外フェスと環境教育を結びつけるハイライフ八ヶ岳の理念に、すんなりと賛同することができました」

玉井さんは建築家の父を持ち、自身も大学で建築を専攻していました。そんなルーツもあってか「何をするか」と「どこでするか」を常にセットで考えているそうです。

「父は『建築家は土地を読む人であるべきだ』と常々語っていました。どこにでも建てられる家を建てるのではなく、その土地の環境にしか建ちえない家を設計する。私が通っていた東京藝術大学の建築学科の基礎をつくった吉村順三さんも同じようなことをおしゃっています。その気質は私にも残っているんです。仕事をお引き受けするときは、どこでやるのか、いつやるのか、誰とやるのかを重要視しています。それらの点が線になり、なんとなく形が見えると、いい仕事ができるんです」

玉井さんが生業とする「音楽」と、自身の価値観を形成する重要なできごとがあった八ヶ岳の「環境」がつながったハイライフ八ヶ岳。音楽と環境が合致すると、どんなことが起きるのでしょうか。玉井さんは、渋さ知らズオーケストラとして出演した印象深いライブを紹介してくれました。

特別だった「渋さ知らズオーケストラ」でのアースデイでのライブ

「2017年のアースデイ東京でのライブは特別でした。この年の春、ミサイルが飛んでくるらしいという不確かな情報が飛び交ってアラートが頻繁に鳴り、人々の心をざわつかせていました。アラートやニュースで不安が煽られて、不安が不安を呼び、大人が怯え子どもにも伝わっていた。そんな空気を壊すように、私たちは音を奏でました。大観衆は、どんどん音楽に乗っていった。カレーの入ったお皿を持ったおじいさんが、カレーが飛び散るのを気にせずと飛び跳ねていたのを見て、スタッフの男の子はびっくりしたそうです。大人も子ども、みんなでジャンプしていたんです」

人々が抱えていた不安。それが濃縮された東京のど真ん中で、渋さ知らズオーケストラが奏でた音は、人々の心を解放し、希望が伝染していきました。晴れた日の代々木公園で、音楽と環境が合致し、マイナスからプラスへ、ネガティブからポジティブへ、大きな転換が生まれたのです。

ハイライフ八ヶ岳では、子どもたちがあたふたしちゃうほど楽しい空間が広がってほしい

年齢に関係なく、安心して楽しめる空間をつくるには、どうしたらよいのでしょうか?玉井さんは、条件の一つとして「子どもの安心」を大人が意識的につくる必要があるのでは?と言います。

「私はとても疑い深い子どもでした。『この大人は何を企んでいるんだろう』と、常に考えていた。だから、小さい頃の写真はだいたい笑っていないんです。でも、数枚だけ歯をみせるほどの笑顔をしている写真がある。その1枚はディズニーランドで撮影したものでした。遊園地や公園といった空間は、子どもたちが不安や警戒心から普段は閉めている心の鍵を、自ら開けられるように工夫された場所だと思うんです。子どもたちが安心できる場所をつくるのは、大人の大事な仕事です」

今まで出逢ってきた大人にたくさん助けられた。だからこそ、今度は自分が子どもたちに安心できる場を提供したいと玉井さんは考えています。ハイライフ八ヶ岳に積極的に関わるのも、そんな思いが強いからです。

「子どもたちがたまたま出会ったものが、その後の人生を大きく左右するかもしれない。リフトに乗っていい、走り回っていい、犬と一緒に飛び回っていい。ハイライフ八ヶ岳では、子どもたちが一つひとつ鍵を外して、あたふたしちゃうほど楽しい空間が広がってほしい」

今年のハイライフ八ヶ岳では、なにをやりたいですか?という質問に、子どもたちが自由に参加できるワークショップがやりたいと答えてくれた玉井さん。このインタビューから実現したのがワークショップ企画とも言える『玉井夕海“こども”オーケストラ』です。

玉井さんの言葉や経験から「八ヶ岳」という地域でのフェスの価値を考えてみることは興味深いと感じます。
都心には無い豊かな自然は、玉井さんの価値観に大きな影響を与えました。つまり、土地特有の文化や風土は、ときに心の拠り所になることさえあるのです。特に子どもたちに与える影響は大きい。
だからこそ、子どもたちが普段は閉めている心の鍵を開けられるように、さまざま機会を用意するのが大人の役目だとするなら、地域に根ざしたローカルフェスティバルとしての「ハイライフ八ヶ岳」は、その手段としての役割を果たせるはずだと思うのです。

文:葛原信太郎

玉井夕海が出演する。ハイライフ八ヶ岳のプログラムは今年は2本
7月20日(土):「玉井夕海“こども”オーケストラ」
7月21日(日):「渋さ知らズ “八ヶ岳” セッション」
どうぞ、ご期待ください!


インタビューに出てきた渋さ知らズオーケストラのライブです


「玉井夕海“こども”オーケストラ」

まだ誰も体験していない楽しいナニかを!(笑)


「渋さ知らズ “八ヶ岳” セッション」

玉井夕海はもちろん、ROVOの勝井祐二も参加する、特別なライブになります。