「最近、発酵にすごく興味があるんだ」
今回、ハイライフ八ヶ岳(以下ハイライフ)が「発酵」を企画の主軸のひとつとして大きく取り上げるきっかけをくれたのがstarRoでした。発酵といえば、山梨を代表する文化。ハイライフも以前から、山梨のおいしいワインやクラフトビールが人気コンテンツでした。
なぜstarRoが発酵に興味を持ったのか、じっくり語ってもらうために「starRoと回る、山梨発酵ツアー」を実施。ワイナリー「98WINEs」、カフェ「icci KAWARA COFFEE LABO 」、レストラン「フォーハーツカフェ」を回りながら、発酵と文化につながりについてstarRoの考えを聞きました。
ツアーを企画先導してくれたのは、甲府市に創業して150年のお味噌屋さん六代目・五味仁さん。今回のハイライフの発酵エリア「発酵サーカス」のプロデューサーでもあります。
音楽と発酵の共通点
「そもそも、音楽も発酵食品も『誰かと、感情や感覚を共有する』という大事な役割を持っている。音楽も発酵食品も、自分の感情を共有したいと思う人がたくさんいたからこんなにも広がったんじゃないかな」
音楽の大本は「音」。風が草木を揺らす、物が落ちるといった自然現象が生み出した音は「音楽」になることでグルーヴや多幸感をまとい、人々にその感情を共有できます。発酵食品も、大本は発酵という自然現象です。人が自然現象をサポートしたり手を加えて「発酵食品」にすることで、そのおいしさや驚きが他の誰かへと伝播します。
「食べたり踊ったりしながら誰かと感情を共有することで、コミュニティが生まれる。そのコミュニティの中で、やはり自然発生した表現やライフスタイルが『文化』だと思うんだ。つまり文化とは、場所や時代などの広い意味での自然から必然的に生まれる『発酵食品』のようなものなんだよ」
文化に共感した誰が新しくつながりコミュニティが増えたり、その文化に共感できなかった人は別の文化を探す。文化にも「誰かと、感情や感覚を共有する」という役割があるとstarRoは言います。
必要だから自然発生する
「必要性を帯びて自然発生的に生まれるのが文化の本質であるならば、今の社会で言われいてる『文化』『カルチャー』って本質とずれているんじゃないだろうか。まるで、いろいろ加工を施した安すぎるスモークチーズみたい。経済的・社会的利益のために、無理矢理つくって、デフォルメされてしまったカッコつきの『文化』ばかり増えてないだろうか」
本来の文化が持っている「役割」や「必然性」もないので、瞬間的な盛り上がりはあってもメリットがなくなれば誰も支えようとしない。大資本によるカルチャーの食い散らかしはこうした現象の末期症状なのでは…。
「周りを見渡すと、新しい文化を興したい、あるいはそういうものに出会いたいという人が非常に多い。そんな人が大事にしたほうがいいのは、自分の生活にその新しい文化が必要かどうか。自分が必要だと思うことは、誰かにとっても必要で、その連鎖で少しずつ大きくなっていく。そういった自然発生的なできごとの副産物として、文化と呼ばれるムーブメントやコミュニティができていく。フェスティバルだってそうだよね。
自分にとって必要なことを強く認識する。そして、その必要性を生活の中であるがままに表現する。そうすれば、共鳴する人が見つかりつながる。新しい表現が、コミュニティーや作品、フェスティバルという形で生まれて行く。僕がどうやってその流れに組み込まれていくのか。これからの人生で一番楽しみなのはそういうところだったりするんだよね」
ツアーで訪れた「98WINEs」で、オーナーの平山さんが「ワインはその場所が生むんだ」という話をしてくれました。ワインは日本酒やビールと比べて、人が手をかける工程が圧倒的に少ないそう。ワインはその場所の自然環境によって生み出されているとも言えるのです。
ハイライフもそんなフェスティバルでありたい。山梨だからこそできるフェスティバル。山梨だからこそ生まれるフェスティバル。自然発生的に生まれる本質的な文化でありたい。そのつもりで、今年のハイライフはさまざまな企画を立ててきました。その方法はきっと間違えてないはず。発酵のように、ジワジワと効いてくるから、すぐに目には見えないかもしれないけど。
発酵と音楽とフェスティバル。それぞれのつながりが見えてきました。
人が一体感も多様性も孤独も感じる不思議
「starRoと回る、山梨発酵ツアー」として最後に訪れたのは、絶品の山梨県産ワインを並べるレストラン「フォーハーツカフェ」。ハイライフの甲府メンバーもそのセレクトに、絶対的な信頼を置いています。実は、starRoはフォーハーツカフェオーナーの大木さんとすでに親交があったそう。ハイライフ当日は、大木さんとstarRoでトークも企画中です。
大木さんセレクトのワインを飲みながら、話は少し深い領域へと入っていきました。
「発酵や文化が自然を原点に進歩したように、人間だって『自然のまま』を大事したほうがいいと思うんだよね」
フェスティバルの醍醐味のひとつに、音楽を通じた一体感があります。同じ音楽を聞き、身体が自然と動き出す。地に足が着いていても、意識は空高く上っていくような不思議な恍惚感、多幸感でフロアが一体になる。この体験がたまらなくてフェスティバルに来る人も少なくはず。
その一方で、僕たちは、多様性が大事にされる時代に生きています。「みんなちがって、みんないい」というように、自分と他者の違いを自覚し尊重し合おうとするのです。ただし現代社会は、孤独が社会的な問題になってもいます
つまり、一体感を求めつつも、他人と違った自分でありたいとも願うし、孤独に心を病むこともある。相反するいろんな感情をごちゃまぜに持っていますよね。この背景にあるのは、すべての人が持つ共通体験にあるんじゃないか、とstarRoは考えます。
「人はだれでも、お母さんに宿り、お母さんから生まれるよね。このとき起こったことは大きく3つに分けられる。
① 母親という生後別の存在と認識される「他者」の一部であった体験
② 母親の一部として完全に生命の営みを委ね、出産まで生き続けるだけのすべてを無条件に与えてもらった体験
③ 出産と同時に母親の一部という状態から独立し、自己と他者に分けられた体験
そこからやがて、人はそれぞれの自分へと枝わかれしていくよね。自分が生存するために、物理的にも社会的にも競争力を高めようと、自己と他者の区別をしていく。結果、社会はどんどん複雑化する」
くっついたり、離れたり。そんな強烈な体験を、すべての人が通っている。ふと考えてみるととても不思議です。地元が同じ、年が一緒、同じ大学に通っていた。そんな共通点を見つけると、なんだかと信頼や親近感が生まれます。同じように、誰もが生まれる瞬間を体験しているわけですから、本来であればすべての人に信頼や親近感が生まれても良いはず。でも、そうはなりません。
「なぜなら、生まれた瞬間のことなんて、誰も覚えていないから。生まれたあとの、一人として同じ条件にいないそれぞれの人生を歩む時間のほうが圧倒的に長いし、その結果、多様な価値観が生まれるわけで」
starRoの曲を聞いていると「誰かに共感してほしい」「孤独から抜け出したい」「でも、誰彼構わず一体になりたいわけじゃない」というような、複雑な心境が描かれていると感じます。アーティストは、こうやって自分の考えを作品にしているんですね。
原点に帰っていく必要性
「こうした状況を打破するのは『本来の状態』に自分をリセットすることが必要じゃないかと思うんだよね。いろんな体験や認識が生まれる前の、シンプルな素の状態に体を戻す。それによって、人として本来持っている純粋な喜びや楽しさ、気持ちよさを思い出せる。胎児に戻ったかのようなシンプルな感情は、大人になるにつれて身につけてしまったさまざまな価値観やそれによる断絶を超えて、共感がつながっていくんじゃないか、と」
多くの人がヨガやストレッチをしたり、サウナで体の緊張を解放したり、マッサージや整体を受けたりするのは、まさに肉体を本来の状態に戻しているんじゃないかともstarRoは考えます。
「そもそも、僕らはテクノロジーやツールによって、自分が本来発揮できる力よりも遥かに大きな力を扱っている。歩ける距離やスピードには限界があるけど、自転車や車を使うことで本来の身体能力を超えたパワーを扱うことができる。だからこそ、自分本来の力がどのくらいかも忘れてしまうし、本来の力が衰えてしまうことだってある」
だからって、テクノロジーやツールを否定するわけじゃありません。それはそのまま使えばいいけど、素の状態に戻る時間もつくってあげる。サウナやヨガ以外にも、刺激物を避けたり、できるだけ肌で外気を感じたり、スキンシップしたり、スマホから目を離して遠くを眺めてみたり、乗り物を使うかわりに歩いたり、自重トレーニングしたり。
「つまり『原点』を体感しながら進歩していく。僕らが孤独感に襲われるとき、生きる目的を見失ったとき、幸せのありかがわからなくなったとき、原点の体感に立ち返ったらいいと思うんだ。原点回帰して、コースがどっちにずれてしまっているか、確認する。そういったことを繰り返していくと心が安定してくように思う」
こうした人間の原点に立ち返るというのは、自然に立ち返るということでもあるとstarRoは言います。
「原点回帰とは自然回帰でもある。これは『森の中で住もう』とかってということではなく『自然に生まれる現象やルール、パターンに立ち返ろう』ということ。人は誰が教えるわけでもなく、脳や内臓ができるし、顔があって体もできる。人が生まれて育っていくことだって自然のひとつ。どれだけテクノロジーやツールが発達しようとも、こうした自然の現象はすべての前提にある。発酵だって、文化だって、自然現象の生成物と考えると、自然ってやっぱりすごいよね」
さて、あれこれと話しているうちに、また発酵と文化の話に行き着きました。
「渋谷のような都会にも自然物は無数にある。でも八ヶ岳のような場所が都会と違うのは、植物も動物も人間もそこで行われる営みがもっと有機的に繋がってるということ。何万年も一緒に生き続けたような木々たちの自然なダンス。音や風がそれらの木々をくぐって僕らと絡まる様。その地域で日々生活を営む中でじっくり熟成していく人と人の自然なシナジー。そうやって環境全体から絶え間なく生まれる『動』を感じて原点に立ち返り、自らの生活にフィードバックしていく。そんな自己循環をこのフェスで体感してもらいたいと願っている。ここにはそれがあるから」
夜も深くなってきたので、「starRoと回る、山梨発酵ツアー」もそろそろお開き。
ハイライフと発酵とstarRo。これも自然発生的に生まれた不思議なめぐり合わせ。さて、今年のハイライフはどんな体感が待っているのでしょうか。どうぞ、お楽しみに!
98WINEs
〒404-0056 山梨県甲州市塩山 福生里250-1
https://98wines.jp/
Icci KAWARA COFFEE LABO
〒406-0021 山梨県笛吹市石和町松本829−4
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FourHeartsCafe(フォーハーツカフェ)
〒400-0031 山梨県甲府市丸の内1丁目16−13 ヤマサビル1F
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